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大津地方裁判所 平成10年(ワ)14号 判決 1998年3月31日

原告

藤本美香

ほか二名

被告

車戸康秀

主文

一  被告は、原告藤本美香に対し、二二八万一六一四円、原告藤本嘉夫に対し七〇万二九〇三円、原告藤本壽子に対し七〇万二九〇三円及び右各金員に対する平成七年二月一一日から支払い済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを三〇分し、その二九を原告らの負担とし、その余を被告の負担とする。

四  この判決一項は仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求の趣旨

一  被告は、原告藤本美香に対し、九一九一万二三五五円、原告藤本嘉夫に対し、二五一二万三一九四円、原告藤本壽子に対し、二五一二万三一九四円及び右各金員に対する平成七年二月一一日から支払い済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

三  一項につき仮執行宣言

第二事案の概要

一  本件は、藤本益男が、深夜、自動車専用道路の導流帯に佇立していたとき、被告運転の車にはねられて死亡した事故について、その相続人である原告らが被告に対し、不法行為に基づいて、死亡による逸失利益等、原告ら固有の損害を請求した事案である。

二  争いのない事実及び証拠上容易に認められる事実

1  次の交通事故が発生した(争いのない事実、甲一ないし四、乙一、三ないし七)。

日時 平成七年二月一一日午前〇時四〇分ころ

場所 大津市茶戸町六番二号地先 国道一六一号線西大津バイパス

被害者 藤本益男(昭和三八年一月一一日生、京セラ勤務、以下、「被害者」という。)

加害車 被告(昭和四九年三月二六日生)運転の普通乗用自動車(滋賀三三て一九二四)

事故の態様 被告は、加害車を運転して、大津市茶戸町六番二号地先の国道一六一号線西大津バイパス藤尾ランプ上り流入路を横木方面から神宮方面に向かい進行中、前方注視を怠ったため、前方の導流帯上に佇立していた被害者の背後に加害車の前部中央付近を衝突させ、被害者をボンネットの上にはねあげた上、転倒させた(以下、「本件事故」という。)。そのため、被害者は、同日午前三時二分ころ、大津赤十字病院において、本件事故による傷害が原因で脳出血により死亡した。

2  被告の責任(不法行為)

被告は、前記日時、場所において、藤尾ランプ上り線流入路を横木方面から神宮方面に向かい時速約四〇キロメートル(四〇キロメートル制限)で進行し、加速して西大津バイパス本線に合流しようとしたが、このような場合、自動車の運転手としては、前方を注視し、進路の安全を確認しつつ進行すべき注意義務があるのに、これを怠り、同バイパス本線を京都方面から進行して来る車両の確認のみに気を奪われ、前方注視を欠いたまま漫然時速約六〇キロメートルに加速して進行した過失により、折から、進路前方の導流帯上に佇立していた被害者を前方約一二・四メートルの地点で初めて発見し、急制動の措置を講じたが及ばず、本件事故を惹起させたものである。したがって、被告は民法七〇九条の不法行為責任がある。

3  被告は、本件について業務上過失致死罪により、平成七年七月三一日、起訴され(略式請求)、そのころ罰金刑を受け、確定した。しかし、行政処分は受けなかった。

4  原告藤本美香(以下、原告らにつき姓を省略する。)は被害者の妻、原告嘉夫は父、原告壽子は母であり、被害者の相続人として、被害者の被告に対する損害賠償請求権について、原告美香は六分の四、原告嘉夫及び同壽子はそれぞれ六分の一宛相続した。

5  原告らは自賠責保険から二九六四万二八五〇円の保険金を受領した。

三  争点

1  損害

(原告らの主張)

(一) 医療費 六万五六一五円

(二) 文書料 五六三五円

(三) 死亡による逸失利益生活費控除三割、就労可能期間六七歳まで) 七九八〇万〇〇三三円

(四) 退職金 二〇五六万八〇〇〇円

(五) 退職年金 一七九四万二七三三円

(六) 死亡慰謝料 二〇〇〇万円

計一億三八三八万二〇一六円

(相続)原告美香 九二二五万四六七七円

原告嘉夫 二三〇六万三六六九円

原告壽子 二三〇六万三六六九円

(七) 原告ら固有の損害

原告美香につき慰謝料一〇〇〇万円及び葬儀費用一四一万九五七八円、原告嘉夫及び同壽子につき慰謝料各五〇〇万円

(以上の合計)

原告美香 一億〇三六七万四二五五円

原告嘉夫 二八〇六万三六六九円

原告壽子 二八〇六万三六六九円

(八) 損益相殺(自賠責保険から支払いを受けた二九六四万二八五〇円の相続割合に従った充当)による差引残額

原告美香 八三九一万二三五五円

原告嘉夫 二三一二万三一九四円

原告壽子 二三一二万三一九四円

(九) 弁護士費用

原告美香 八〇〇万円

原告嘉夫 二〇〇万円

原告壽子 二〇〇万円

(原告らの請求額)

原告美香 九一九一万二三五五円

原告嘉夫 二五一二万三一九四円

原告壽子 二五一二万三一九四円

及び右各金員に対する不法行為の日である平成七年二月一一日から支払い済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金

(被告の主張)

医療費及び文書料については知らない。

死亡による逸失利益については、六〇歳までの分は知らない。六〇歳後の分は否認する。退職年金を六〇歳の定年後から請求するのであれば死亡による逸失利益と重複する。生活費の控除を三割とするのは不当に低過ぎる。

2  過失相殺の適否、割合

(被告の主張)

被害者は飲酒の上深夜西大津バイパスの合流部に佇立していたもので、大幅な過失相殺をすべきである。

第三証拠

本件記録中の書証目録記載のとおりであるから、これを引用する。

第四当裁判所の判断

一  争点1(損害)について

1  (一)の医療費及び(二)の文書料 七万一二五〇円

甲三並びに弁論の全趣旨によれば、被害者は本件事故のため医療費六万五六一五円及び文書料五六三五円の支出を要したことが認められる。

2  (三)の死亡による逸失利益 五七六八万九七三七円

甲五ないし七、乙二によれば、被害者は死亡当時三二歳で、当時の年収は五七二万三七五六円であること、勤務先の京セラの定年は満六〇歳で定年に達した直後の三月三一日をもって退職するものと規定されていること、被害者の妻原告美香も就労しており、子供はなかったこと、以上の事実が認められるので、生活費控除を五割とし、稼働年数を六〇歳までの二八年間は右年収の全額、六一歳から六七歳までの七年間はその半額の収入を得ることができたものと認めるのが相当であり、新ホフマン係数により算定すると、計五七六八万九七三七円となる。

五七二万三七五六円×一七・二二一×二分の一=四九二八万四四〇一円

五七二万三七五六円×五・八七四×四分の一=八四〇万五三三六円

3  (四)の退職金 一八五六万四〇〇〇円

甲五、八によれば、退職一時金額は二〇五六万八〇〇〇円であるが、平成七年三月二八日に京セラから原告美香に対し退職一時金二〇〇万四〇〇〇円が支払われているので、この残額は一八五六万四〇〇〇円であると認められる。

4  (五)の退職年金 一二〇四万二五八一円

甲五、八によれば、京セラにおける退職年金は退職後の四月から開始し、終身支給される計算で、被害者の場合、年額一九九万四三〇〇円であるので、六〇歳から平均余命年令の七七歳までの一七年間、生活費割合を五割とし、新ホフマン方式により中間利息を控除すると、以下のとおりとなる。

一九九万四三〇〇×二分の一×一二・〇七七=一二〇四万二五八一円

5  (六)の死亡慰謝料 一五〇〇万円

本件事故の態様、負傷の内容、程度等本件に表れた諸般の事情にかんがみると、死亡慰謝料は一五〇〇万円をもって相当と認める。

6  原告ら固有の損害(原告美香三九〇万円、原告嘉夫一二五万円、原告壽子一二五万円)

本件事案にかんがみると、原告美香自身の慰謝料は二五〇万円、原告嘉夫及び同壽子自身の慰謝料はそれぞれ一二五万円をもって相当と認める。また、甲一〇、一三によれば、原告美香の支出した葬儀費用は一四〇万円を下らないことが認められる。

7  まとめ

以上の事実によれば、原告美香の損害は相続による分として六八九一万一七一二円、同人固有の分として三九〇万円の計七二八一万一七一二円、原告嘉夫及び同壽子につきそれぞれ一八四七万七九二八円となる。

二  過失相殺の適否、割合

甲一、二、乙一ないし七によれば、本件事故現場の状況は、アスファルト舗装の乾燥した流入路で、被告の進行方向からの見通しは良く、照明があってやや明るい所であったこと、加害車の前照灯では約四二・六メートル前方まで照射することができたこと、他方、本件事故現場は自動車専用道路へ合流する導流帯上であって、通常、歩行者が出入りするような場所でないのに、被害者は、深夜、危険な導流帯上で加害車に背を向けた姿勢で佇立し、藤尾ランプから上って来る車への注意を欠いたため本件事故に遭遇したものと認められ、これらの事故態様にかんがみると、被害者の過失は被告よりもよほど大きいといわざるを得ず、過失割合は被害者七、被告三と認めるのが相当である。

そうすると、原告美香の損害は二一八四万三五一四円、原告嘉夫及び同壽子のそれは、それぞれ五五四万三三七八円となる。

三  自賠責保険金の給付による損益相殺

原告らが自賠責保険から二九六四万二八五〇円の保険金を受給したことは争いがないので、これを原告らの相続割合に応じて原告美香につき一九七六万一九〇〇円、原告嘉夫、原告壽子につきそれぞれ四九四万〇四七五円を充当すると、その残額は次のとおりとなる。

原告美香 二〇八万一六一四円

原告嘉夫 六〇万二九〇三円

原告壽子 六〇万二九〇三円

四  弁護士費用

以下の金額をもって、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用相当の損害と認める。

原告美香 二〇万円

原告嘉夫 一〇万円

原告壽子 一〇万円

五  結論

以上によれば、本件各請求のうち、原告美香については二二八万一六一四円、原告嘉夫及び同壽子についてはそれぞれ七〇万二九〇三円及び右各金員に対する不法行為の日である平成七年二月一一日から支払い済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるからこれらを認容することとし、その余はいずれも失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六四条、六五条、六一条、仮執行の宣言につき同法二五九条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 鏑木重明)

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